顔のちょっとした強張り、あざとさが残る体の角度…。人はカメラを向けられると、どこかにいつもと違う素ぶりがのぞくものだ。もはやそれはパブロフの犬的反応に近い。でも、彼女にはそれが微塵も感じられないのである。にも関わらず、これほど周囲を魅了するのだから、モデルという仕事はやはり彼女にとっての「天職」なのだろう。そんな彼女へやぶさかと思いつつも問いかけた、「色気」に対する考え方。屈託のない言葉の節々に、そのヒントが隠されていた。

Scene. 01

風の吹くまま気の向くまま過ごす公園でのひととき

今回のインタビューは、とある公園のベンチでランチを摂りながら行われた。なかなかイレギュラーなスタイルだが、だからこそ飾り気のない、彼女のありのままの言葉を聞くことができたとも言える。のどかで穏やかな空気が流れる公園で過ごす休日は、「もはや日課」と語るほど彼女にとってはお馴染み。その発端は、あの世界的パンデミックのさなかにある。

「もう行くとしたら公園ぐらいしかありませんでしたよね。でも、どうやら私、公園でゴロゴロするのが好きみたいです(笑)。代々木公園はしょっちゅう行っていましたし、芝生が広い砧公園もよく行きました。旧前田公爵邸がある駒場野公園も、管理が行き届いていてすごく綺麗なんです。そこへレジャーシートを敷き、持ってきたお茶の道具や朝食の残りをお弁当にしたものをたくさん並べて。暑くも寒くもない時期には、朝から晩までずーっとゴロゴロ転がっています(笑)」

「もう行くとしたら公園ぐらいしかありませんでしたよね。でも、どうやら私、公園でゴロゴロするのが好きみたいです(笑)。代々木公園はしょっちゅう行っていましたし、芝生が広い砧公園もよく行きました。旧前田公爵邸がある駒場野公園も、管理が行き届いていてすごく綺麗なんです。そこへレジャーシートを敷き、持ってきたお茶の道具や朝食の残りをお弁当にしたものをたくさん並べて。暑くも寒くもない時期には、朝から晩までずーっとゴロゴロ転がっています(笑)」
と聞くと、アクティブ派と安易に受け取りがちだが、実はそこまで活発ではなく、なにかに執着することもない。だからこそ、ひとつのことをストイックに突き詰める人に対してはリスペクトの念を抱いている。

と聞くと、アクティブ派と安易に受け取りがちだが、実はそこまで活発ではなく、なにかに執着することもない。だからこそ、ひとつのことをストイックに突き詰める人に対してはリスペクトの念を抱いている。

「アウトドアとかやってみたい思いはありますけど…私にはひとつのことをやり続ける器量がありません。よく世間一般でその道を極めた方っていらっしゃるじゃないですか。本当に尊敬しますね。私はもう日和ってばかりなんで(笑)」

Scene. 02

「私ってからっぽ」。究極の客観視の先に見えてきたもの

何かにハマった経験がそこまでないと彼女は言う。ならば、長年モデルとして活躍してきただけにファッションについてはどうか。話を向けると即座に眉根を寄せる。

「モデルさんの中には、洋服が好きでしかもおしゃれな方がたくさんいますよね。だけど、私はそのあたりのこだわりがあまりないんですよ。必要なものだけあればいい。全然興味がないわけではありませんけど、無理してまで買いたいとも思わないタイプですね。私って“からっぽ”なんです。もしかしたらからっぽだからモデルを長く続けられるのかも?と思ったりもします。何にも考えてないから」

執着やこだわりがないからこその言葉。それは謙虚さからくるものか、はたまた気まぐれさからなのか。どちらにせよ、呆気らかんと自分のことを「からっぽ」と表現できるあたりがまた彼女らしい。たしかに、あらゆる服に袖を通すモデルという仕事は、特定の“自分”が前に出過ぎるとそれが足枷になりかねない。

「私の好きなアイドルの子が『私はアイドルを上手にできたからずっと続けられている』、みたいなことを言っていて。それを聞いて『あ、私もそうかもな?』って思ったんです。私も同じでたまたまモデルとして存在することがうまくできたから続けているのかもしれない。逆に言えば、私は今のところこれしかできないんだと思います。ありがたいことに演技のお仕事もいただいたりしていますが、いまだにちょっとだけお客さんみたいな気持ちがあるんですよ。私でいいのかしら?なんだかすみません、みたいな(笑)」

Scene. 03

年齢を感じさせない健やかさや精神的な若々しさに漂う魅力

カメラで切り取った先の世界で彼女はより輝きを増す。しかも、年を追うごとに純度を高めている印象だ。一方、ファッション観は昔からずっと変わってはいないというのだから面白い。

「最近よく手に取るアイテムを思い返すと、昔好きだった服に回帰しつつあると感じます。いや、回帰というかむしろずっと変わってないかも(笑)。とにかく普通のものが良くて、あまり尖った服は好きではありませんでした。ジーンズ、Tシャツ、カーディガン、BDシャツ…。わりとトラッドなものが好きですね。もしかしたら、10代の早いタイミングで大量の尖った面白いものを見てきたがゆえなのかもしれません。お仕事で着られるし、もう私は普通でいいやー、って」

そんな彼女の目から、ナチュラル素材のアイテムを軸にした今回の3ルックはどのように映ったのだろう。

「全体的にすごく着やすかった印象です。インド綿で仕上げられたネイビーのセットアップもすごく良かった。インド綿、気持ちいいですよね。個人的にも大好きなんです。あと、最近だと白を着たいなっていう衝動に駆られています。2ポーズ目の白のセットアップはそんな心情を察していただいたかのようなアイテムでした。それに最後のボーダーのカーディンガンにワイドなチノパンも、公園へ足を運ぶ際にはちょうどいいかもしれませんね」

ナチュラル素材の心地よさを語りながら、合繊素材やサテンに対しては「作り込んだツヤはちょっと苦手かも」と距離をおく。それは、彼女が考える色気に通ずるところがあるのかもしれない。

「個人的には色気って意識して出せるものではないのかもな?と思っています。にじみでるようなものなのかもしれない。以前、谷川俊太郎さんにお会いしたことがあったのですが、なんだかとっても色気のある人だと思ったんです。10年くらい前に詩の朗読会に行った時に、ご挨拶をする機会があって。らくらくホンを使ってるうちの母なんかよりも年上なのに、谷川さんはiPhoneで、すいすいっとご自分のスケジュールを管理されていました。その姿がなんとも格好良くて、色っぽいなぁと思ったんです。ああなれるかなぁ、私も少しでもああなれたらいいなぁとも思いました」

市川 実和子

東京都出身。90年代にモデルとしてデビューし、多くの雑誌や広告、ショーなどで活躍。
カリスマ的な人気を博す。その後女優として映画やドラマなどにも活躍の場を広げる。NHK連続テレビ小説「ブギウギ」などで好演。

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