別注企画から見えた
ブランドの新たな一面

1994年にジェフ・グリフィンが立ち上げたブランドは、以降、瞬く間に注目の的となりあらゆるデザイナーに影響を与えてきた。それから30年近い時を経て、スタイリスト・三田真一氏を招き入れたライフスタイルライン、グリフィン ハートランドをスタート。3シーズン目を迎えている。そして今季、“ナノ”との初別注コレクションを発表。その中身を含め、監修を務める三田氏にブランドの来季についても聞いた。

  • ディレクター/スタイリスト
  • 三田真一

スタイリストの熊谷隆志氏に師事し1997年に独立。翌年には渡英しロンドンを拠点に雑誌、広告などのスタイリングを手掛ける。2001年の帰国後、音楽ライブや映画、ドラマと活躍の場を広げ、スタイリストとして活動しながら衣装デザインにも着手。自身の作品発表にも積極的で、サカナクションの山口一郎氏が率いるクリエイター集団、NFではクリエイティブディレクターも担当する。

グリフィンでありながらグリフィンにならないモノ作り

―グリフィン ハートランドをスタートし3シーズン目を迎えました。まずは、グリフィンというブランドに対して当初、どのような印象をお持ちだったのでしょう。

三田 存在を知ったのは’90年代。おそらく、ブランドを知る人間は僕ら世代がメインでしょう。当時は、前衛的でユニークなもの作っているな〜という印象でしたよね。軍モノをベースにスポーツ的な機能を落とし込んだ面白いブランドとして私自身は認知していました。

―三田さんがライフスタイルラインを手掛けるにあたり、そのあたりは意識されましたか?

三田 う〜ん…それがまた難しいところですよね。セカンドラインという位置付けではありますが、グリフィンのまんまだと意味がないわけで。最初はグリフィンと歩調を合わせてやってはみましたけど、そうすると両者に差がなくなってくる。グリフィンのリーズナブルラインを作っているように見えるなら、ハートランドはハートランドとしてちゃんといいものを届けたいと思いました。その先に、グリフィンの考えや想いが伝わるものを作っていく方が自然なのかなと。

―具体的にはどのような?

三田 グリフィンは作りが平面に近くシンプルなものが多いので少し立体的に形を変えたり、素材のニュアンスを変えたりといった具合。とはいえ、今の日本のストリートやブランド的な要素に倣い、あたかも流行りの服にグリフィンのディテールを入れたように見えてしまうと日本のブランドっぽく見えてしまうので、そのあたりは避けたいとは思っています。

―さじ加減が難しいですね。

三田 はい、難しいです(笑)。なにせ、これまでグリフィンに影響を受け作品に落とし込んできたデザイナーはたくさんいますから。たとえグリフィンのアイテムから少しズラしたアイテムを作っても誰かのコピーになりかねない。ですので、当時のディテールを踏襲しながらその時期から外したベースを採用したり、またはイギリスにこだわらず、例えばイギリスにカナダ人が来たらこういうもの作るだろうとか、イギリス人がアメリカの物を着たらこうなるんじゃないかなど、俯瞰的視点と想像力も交え考えたりはしています。

「ひとつのアイテムで自分なりに遊べたりアレンジできるのが楽しい」

―それらを踏まえた上で今季、ナノ・ユニバースとの別注コレクションを発表されました。

三田 やっていくうちにナノさんの選ぶ色、例えばオリーブや黒の方がいいじゃんって思っちゃいました(笑)。でも、それはいいことで、むしろブランドを客観的に見ていらっしゃるでしょうから、元のアイテムをベースにこうしたら、という意見は参考になりますよね。現場にいる人達の方がキャッチーさだったり、買い手の温度感だとかはよく分かっていると思いますし、頑なに僕らの我を通さない方がいいなとは思いました。

―コレクションの特徴としてはどのようなところになるでしょうか?

三田 ベースはやっぱりブリティッシュ。それに、インサイドアウトという、要は裏返して着ているような服のパターンがもともとグリフィンは多いんですよ。なので、今回はわりとリバーシブルで着られるものが多いかもしれません。パンツですらリバーシブルにしてしまいましたから。どっちのデザインをA面にして作ろうかとなった時、裏返した方がかっこよくないという意見が出れば、だったらもうリバーシブルにしようみたいなのがどんどん増えていって。ひとつのアイテムでその人なりにいろいろ遊べる服がラインナップされている印象です。

―こちらのダッフルコートはどうでしょうか?

三田 説明しづらいダッフルコートになったなと(笑)。一般的なモノとはやはり違いますからね。前を開けて着ると、そのニュアンスがコートなのかダッフルなのか分からない。このくだけた雰囲気がいいな、と個人的には思っています。

―生地感によるものでしょうか?

生地感もあると思いますけど、モッズコートにもいえますが首回りにあえてのせた重さも影響しているとは思います。まあそれが嫌な人はフードを取り外せばいい。やっぱり自分でアレンジできるっていうのは今回の面白さでもあるので。

―セットアップでも着られるジャケットも素敵です!

三田 オリーブの3Bジャケットはハンティングの要素も入れていますし、イギリススーツのフレーバーも香らせている。それを軸に、様々レイヤードできるのも面白いと思います。同系色のシャツを合わせましたけど、白インナーでもいい。既存のアイテムをどうアレンジするかという楽しさが別注の楽しさですよね。グリフィンとハートランドの差を考え仕上げたものから、今度はハートランドとナノさんの会話になっていく。そこからのアイテムの広がりが興味深いと感じました。

―たしかに自由度は高まると思います。

三田 ハートランドはハートランドとして考えていくべき独自のラインと、グリフィンを踏襲したものとの融合が増えていけば、より別注をやっていくうえでも面白いものがどんどん増えそうな気がします。今回の別注でその可能性をすごく感じましたね。

昨今の気候変動も視野に入れた来季のコレクション

―2024年春夏のルックも拝見しました。次シーズンの注目すべきポイントは?

三田 今年の夏だけにいえたことではないですが、昨今、とにかく夏の暑さが尋常ではありません。それも踏まえ、機能素材へ積極的にアプローチしています。ですので、Tシャツでもより機能的なもの、パンツでもある程度のハリ感はありつつかなり薄手のもの。レイヤードを楽しめる透け感の強いものなどを多く取り揃えています。機能がデザインの根源になっているのもあれば、同色で染めてはいるものの織りの違いによって各所で色味の異なるアイテムも見ていただきたいですね。

―たしかに!

三田 後染めって結構面白くて。機能的に作っても、染めによって綺麗にもなるし味のあるものにもなる。そのあたりがどこかグリフィンっぽくてすごくいいなと思いますよね。

―素材へのアプローチと後染めがキーですね。次シーズンも楽しみに待ちたいと思います!

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