フランスの爽やかなリゾート地の必需品であるボーダーのトップスは、ココ・シャネルやパブロ・ピカソ、そしてシャルロット・ゲンズブールをはじめ、多くの著名人に愛された。潔くパターン化されたデザインは、「フレンチマリン」とは名ばかりの、ミニマルでコンパクト。シルエットは、シンプルでありエレガンス。ターコイズに輝くケルト海を望みながら、ピンク色の花崗岩に座って本を読むのもいい。長い陽とべた凪の静けさの中、かつてのファッションアイコンたちに思いを馳せながら。
優しく照らす陽の光と肌心地の良いベロアは、気分をほんの少し高揚させ、うっとりとさせる。無機質な空間の中にハンス J. ウェグナーのYチェアとアルヴァ・アアルトのパーテーションさえあればいい。なにをするわけでもなくここに座って、緩慢な時間を楽しみたい。目を閉じ耳を澄ますと、雄大な自然に彩られたアーカンソーの大地と緩やかに流れるミシシッピ川の風景が心にが浮かぶ。そこはかとなく感じるインスピレーションは、この大都会東京と、何らかの繋がりがあるのかもしれない。
雲がかった空の奥でひかる太陽が、光の乱反射で部屋の中がいつもより明るく感じる。窓の外が明るくなり、まだ淀んでいない、澄んだ空気を感じられるこの時間が好き。ウェス・アンダーソンの映画に出てくるような、鮮やかで優しいパステルの黄色の部屋と、そこにぴったりのこれまた淡い色の服。コンポーネントから流れる90年代のブリットポップなサウンドに心を弾ませながら、今日着る服はどっちにしようか。優柔不断で決めきれなくたっていいじゃない。お気に入りに服と、お気に入りの場所があるだけで。
90年代のスクールムービーに必ずと言っていいほど出てくる、ボーイッシュで気の強い、オタク気質の女の子。癖があるけど素直な性格に描かれるその女の子は、少し癖がかった長い髪を一つに結えたポニーテールにスウェットにブルーのバギーデニムを穿いていた。年齢も国籍も好きなものもまったく違うけど、ふと、スクリーンの彼女になってみたくなった。ジップアップのスウェットに、私はスカートを合わせて。色気づいてと忌み嫌われるかもしれないけれど、そんな彼女へ、私なりのオマージュを。
服には不思議な力がある。「フランス人は10着しか服を持たない」なんて言うけれど、たくさんの服に囲まれている時間はなんとも至高で、幸福感に包まれる。Tシャツ一枚にしたってコート一着にしたって、その喜びは変わらない。この感情を携え、今日はどこへ向かおうか。ハイド・パークで読書をしたり、近くのテスコでワインとチーズを買ってみたり。少し考えるだけでも、わくわくが止まらない。今日は"So Many Good Things(たくさんの良いこと)"が起きる予感。
今から28年前に公開された映画「レオン」のナタリー・ポートマンは、時代を経ても色褪せることなく美しい。彼女がよく身につけているMA-1は、13歳の女の子が着るには少々無骨すぎるけれど、絶妙な可愛らしさも備えている。タイトなトップスとショートスカートに、ちょっぴりアヴァンギャルドなチョーカーをつけて。いつの日も、どんな時も、人生の主人公は自分自身でいたい。ニューヨークの街を闊歩する、麗しいマチルダのように。さぁ、今日はどんな街を歩こうかな。
数年前に行ったフランスでの午後3時。パリ7区にあるシャン・ド・マルス公園で、ベースボールキャップを被っていた若い女の子たちに心を奪われた。キャップからはみ出る髪の毛はシルクのように柔らかそうで、乾いた風で宙を遊ぶように靡いていた。ほんのり日焼けした肌にそばかすと、少し照れくさそうに笑った顔が驚くほどにチャーミングだった。威風堂々とそびえ立つエッフェル塔の存在も霞むほどの太陽のような笑顔は、パリでの思い出をより一層と美しいものにしてくれた。
新しい靴は、知らない街へ連れて行ってくれる。夏の暑さが尾を引く最中、まだ産で、微かに甘い金木犀の香りが秋の顔を覗かせる。穏やかな時間が流れる中で、誘われるがまま、気の向くままに歩んでいくと、小ぢんまりとたたずむリストランテを見つけた。まだ開店前の店からは、数種類の新鮮なハーブの香りが漂い、風に乗って鼻腔を通り抜けていく。タイムやローズマリーの、心を惹き寄せられる爽やかな香りに秋のひだるさをぐっと堪えながら、また、気の向くままに歩んでいく。
卸したての革は、なんとも言えない感情にさせられる。丁寧に鞣された柔らかく優しいあの肌心地に、高級で独特なあの匂い。なんとも言い表せないが、恍惚に似た感情を覚えてしまう。なかなかスポットライトが当たらないベルトに、今だけは最大限の愛情を届けよう。ファッションにおける小物という名脇役は、嫌味なく個性を加え、周囲との差別化を図ってくれる。陰の名脇役に、大きな賛辞を贈りたい。
1953年に上映された名作「ローマの休日」ベスパにまたがりイタリアを走り抜けるオードリー・ヘップバーンの首元も、ストライプの利いたチーフが揺れていた。白のトップスにロングスカートとクラシカルな装いには、ポイントのチーフがよく似合っていた。私は首元じゃなくて、鞄を彩ったり髪の毛を結えたりして使うことが多い。アン王女の真似ばっかしててつまらないじゃない。それにだって、天真爛漫なあの笑顔には敵わないから。
スイスの建築家ピエール・ジャンヌレのアームチェアは、モダンでぬくもりを感じる。陽が緩く、ぼんやりとしてきた 8月の終わり。今日は早めにディナーにしよう。イタリアで見たコルティーレのように、たくさんの花に囲まれながら、手づくりの料理と友人を呼んで。なま暖かく吹く風が心地悪いけれど、ここはひとつジャケットを羽織って。カジュアルなのにジャケットっていうのも、なんだかおもしろくって好き。
Item List