
決して口数は多い方ではない。とはいえ、彼の背中にはなにか感じ入るものがある。それは演技においても同様だ。単純な台詞だとしても目線や眉の動き、口角の上下動…。微細な演出で観る者に何かを悟らせる。そんな彼を見るにつけ、色気とは意識するものではないとの仮説に行き着いた。自然体でいることが大切なのだと。今回は「ありのままでいられる場所」と本人が語る海や、心落ち着くレトロバーでの撮影。そこで垣間見えた、俳優・池内博之が考える色気と素顔。

Scene. 01
仕事も遊びも本気。そんな大人の背中に覚えた憧憬
今回の撮影を前に、彼にはひとつの宿題をお願いしていた。「ズバリ、色気とは?」。その問いかけに対し、「う〜ん…なんでしょうねぇ」と相好を崩しひとつの指針を口にした。
「それが色気かどうかは分かりませんけど、僕が男として格好いいと思う人は、真面目に仕事をしつつ遊びにも前向きな人。若い時から思っていましたけど、趣味が多い人にすごく憧れますし、余裕やゆとりといったところも惹きつけられる要因なのかもしれません」


数年ほど前から、海の近くへ拠点を移したのもそんな人たちの影響が少なくないとか。ただ、さらに元を辿れば、30代で経験した海外での短期滞在が引き金になったと言う。
「僕は自然と戯れるのが好きだし、アクティビティが好き。あまり家にこもるタイプではないんですよね。30歳の頃、オーストラリアへ1ヶ月ぐらい滞在した時があって。ビーチ沿いの部屋を借り、台本を読みつつ朝は海に入り、日中はヨガをやったり山をトレッキングしたりもしました。当時、住んでいたのは都内でしたけど、やっぱりこういう生活を体が求めていると実感したんです」

Scene. 02
撮影を通して整理された自分が
求めている服今回のロケーションとして真っ先に思い浮かんだのも「自分らしくいられる場所」と語る海。そこで袖を通したリゾート感溢れるナノ・ユニバースのアイテムに満足感をのぞかせる。
「白パンは久々に穿きましたけどこれはいいですね。太めのシルエットなのでリラックスしながら気取りなく穿ける気がします。というのも、普段は本当にラフで、人と合わない時はもうジャージーのセットアップがお決まり。もちろん人と会う時はちゃんとしますし、たまにはオシャレをしなきゃとは考えるんですけどね(笑)。今回を機に白パンを穿いてみようと思いました」

自分らしくいられるモノは大前提。とはいえ、気持ちを前向きにさせるモノへの好奇心も失わない。そのスタンスが池内さんの服選びの基本。中でもポイントに挙げるのが素材感だ。



「気持ちいい素材はいいですよね。思わず袖を通したくなる。それを考えれば独特なテクスチャー感のある開襟シャツはすごく良かったです。あの風が体を通り抜けていく感じ。生地も程よく柔らかく優しさを感じました。夏にはこれを着てビーチを散歩したいですね」

一転、クラシックなバーに場所を変えての撮影では、ジャケットに身を包みシックを装った。若い頃から、色モノや柄モノはよく手にしてきたという池内さん。その気質は今も残っているという。


「特に苦手意識はないですね。むしろ、キャップやニットで取り入れたりするのは今も好きかもしれません。それだけでテンションがアガりますから。ジャケットも、普段はそんなに着ませんが撮影で頻繁に袖を通すので距離を感じるアイテムではない。これはいいお店やバーに行く時などに使えそうですよね」

Scene. 03
「今も胸を張って言えますけど、破壊と再生の30代は必要だった」
「もちろん赤提灯系も好きなんですけどね(笑)」と前置きしたうえで、「こんなバーにもふと着たくなるんですよ」と池内さん。口元を緩めながらさらに言葉を紡ぐ。
「どちらにも言えるのは、時代の流れを節々に感じられる。積み重ねてきた時の中で、徐々に現れる独特な空気感に惹かれるんです」。

それは演技にも通じるところがあるのかもしれない。あらゆる役柄を演じ、経験を積み重ねていくほどに深みが生まれやがて味わいとなる。その演技においてターニングポイントに挙げたのは、とある偉大な演出家との出会いだ。
「僕が20代の頃、ずっと舞台のオファーは断っていたんです。僕が立てる場所ではないと思っていましたから。とはいえ、そんな逃げている自分も嫌だった。そして30代へ足を踏み入れた時『嗤う伊右衛門』という映画の出演オファーをいただきました。そこで出会ったのが監督をされていた蜷川幸雄さん。とにかく衝撃的でした。自分のやってきたことを全否定された感じ。自分の芝居のダメさや改善点をたくさん指摘してくれた人です」

その後、蜷川さんからの再オファーで舞台に挑戦。頻繁に出演するようになる。30代を「破壊と再生の時代」と話す池内さん。若い頃から数多のドラマや映画に出演し名を広めてきただけに、積み上げてきたものを壊す作業は相当勇気がいったことだろう。ただ、そのマインドセットは後の役者人生において必要だったと語る。
「蜷川さんとの出会い以降、僕の中で表現者としての考え方は大きく変わりました。お芝居に限らずなんでもそうですけど、明確な答えというものはないですよね。いかにその瞬間にいいチョイスをし、表現するか。その感覚は大事だなと。昨日と同じ芝居をしていると毎回蜷川さんに怒られましたからね。「何やってんだー!」って(笑)。そこから演技を細部まで考えるようになりました」

池内 博之
1976年11月24日生まれ。茨城県出身。モデルとしてキャリアをスタートさせ、1997年にテレビドラマ『告白』で本格的に俳優デビュー。翌年にはドラマ『GTO』、初主演映画『BLUE HARP』で注目を集める。その後、数々のドラマ、映画、ドキュメンタリー、CM、舞台に出演し、2006年には『13の月』で初監督を経験。2013年には日中合作映画『スイートハート・チョコレート』にてリン・チーリンとのW主演を果たす。以降、ジャッキー・チェンと共演した中国映画『レイルロード・タイガー』、Netflix韓国映画『夜叉 -容赦なき工作戦』など、国内にとどまらず海外の作品にも積極的に参加。最近では、キロランケ役で出演したWOWOWオリジナルドラマ『ゴールデンカムイ -北海道刺青囚人争奪編-』の名演もまだ記憶に新しいところ。今年も多数の出演作を控える。
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