24SSから復刻したサスティナブルレーベル
"タイムレス ワードローブ"シリーズとして デニムパンツが登場。
モデルは「ワイド」「ストレート」に2型の展開で、 どちらもフラットな加工に仕上げた モダンな表情となっている。
SPECIAL INTERVIEW
過剰生産や廃棄衣料、生産に伴う大気汚染、海洋汚染など環境問題を意識したブランドやファッションアイテムが世間に出回るようになって久しいが、残念ながら今までそれが大きく普及した例は少ない。
デザインやシルエット、素材感など表面的な部分が売上を大きく左右するファッションの世界において、環境問題への貢献というのはどうしても評価されにくいのが現状だ。
ナノ・ユニバースの”Meaning Contuinity”は、ベーシックなアイテムラインナップながら、その素材や、生産・加工方法、副資材に至るまで最新技術で徹底的に環境への負荷を減らすというコンセプトを持ったレーベルだ。
今回はその立ち上げにあたり企画とデザインを担当したhap株式会社の専務取締役/COVEROSS Creative Director、矢作比呂貴氏に話を聞いた。
ナノユニバース(以下NU):こんにちは、今日はよろしくお願いします。
矢作 比呂貴(以下矢作):よろしくお願いします。
NU:もともと矢作さんはアパレルの出身の方なんでしょうか?
矢作:はい、もう25年ほどこの世界にいまして。もともとグラフィックデザインを中心にやっていたんですが、ファッションが好きだったこともあってファブリック(生地)の方にも興味を持つようになりまして。今はこういったジーンズなども作っています。
NU:デザイナーのお仕事から、どういう経緯で環境問題を意識するようになったのでしょうか?
矢作:自分がプライベートでもサーフィンだったり自然と共存するようなアクティビティーをしていたこともあって、自然と調和できる物づくりに興味があったんです。
NU:なるほど、デスクの上だけじゃ気づかない視点かもしれないですね。
矢作:僕らって選べるし、考えられるし、作れるし。やっぱり自分の作っていくものはなるべく環境に配慮したもの、極力負荷をかけないものにしたいなという思いがあったんです。
NU:今回のナノ・ユニバースとの取り組みは、具体的にどのようなものなのでしょうか?
矢作:1年ほど前にナノ・ユニバースさんとサステナブルな商品開発をしたいとお話をいただきました。ただ、そういった商品って消費者にはなかなか響かないんですよね。そこで、商品を普及させるためにまず”機能性”の部分にフォーカスして商品開発を進めることになりました。
NU:なるほど。でもその環境負荷の軽減と機能性は、どのようにして両立させたのでしょうか?
矢作:弊社の開発した技術にCOVEROSS(カバロス)というものがありまして、これは後加工で機能を付加することができるんです。環境に配慮した方法で生産された素材にこの技術を加えることで、2つのテーマを両立させることができました。それが今回NANO universeさんと立ち上げた”Meaning Contuinity”という新しいレーベルになります。
NU:カバロスというのは、具体的にどういった技術なのでしょうか?
矢作:これは製品に後から加工するもので、一度の加工で10以上もの機能を付加することができる特殊な技術になります。加工工程も環境に配慮していますし、素材自体も廃棄される素材や古着など、様々なものをリユースできる技術なんです。
NU:なるほど、それでその技術を使って加工したのが今そちらにある・・
矢作:そうです。このデニムもリサイクルコットンを使っています。色展開もいくつかあるのですが、その加工にも弊社の技術が使われています。デニムの退色加工というのはご存知ですか?
NU:何年か履いたような、あの色落ちの感じを出す技術ですよね?
矢作:そうです。あれって実はものすごい量の水を使うんですよね。今回はオゾンガス洗浄という方法で、従来のものより最大で99%の水の削減を可能にしました。分量でいうとコップ1杯程度になります。
NU:コップ1杯!それはすごいですね。
矢作:通常デニムの退色加工には塩素を使うんですが、それには大量の水を何度も使うんですね。オゾンガス洗浄の場合は製品にナノ状のガスを噴射することでその加工ができるので、従来のような大量の水は使わないで済むんです。
NU:それは知りませんでした。
矢作:他にもこういうフラッシャー(ブランド名や品番などが書かれた紙)も廃棄物をリサイクルしていたり、レザーパッチやブランドネームの素材にも人体に影響のない素材や、ペットボトルから作られた再生糸などを使っています。
NU:見えないところにまで、徹底的なこだわりですね。
矢作:はい、可能な限り環境に配慮したものを使用するようにしています。
NU:先ほどのお話しであった、カバロスの加工方法について、もう少し伺いたいのですが。
矢作:はい。先ほどもお話ししましたとおり、カバロスは「抗菌加工」「UVカット」「接触冷感」など最大で10の機能をつけることができます。ただし、今回リリースしたデニムに関しては「抗菌防臭加工」のみとなっています。
NU:着用後の匂いが気にならない機能ということですか?
矢作:はい。自分はもともとデニムってそんなに洗うものではない認識ではいるのですが、気にされる方でも、この加工によって着用後の洗濯回数を減らすことができるんですね。
NU:他にも加工次第で色々な機能をつけることができるということですか?
矢作:まさに機能をカスタムできるというような感覚ですよね。アウトドアなどで使う衣類には防汚加工を付けたり、夏場であれば接触冷感という機能をつけることもできます。
NU:その機能は、ずっと続くものなんですか?
矢作:残念ながらそれは難しくて…ただ、機能が落ちてしまったものにも再加工することができるランドリーサービスというのも展開しています。それによってお気に入りの洋服を長く着ていただくこともできます。
NU:どんなお洋服にも加工することができるんですか?
矢作:ほぼ全ての素材に加工可能です。撥水加工とかUVカット加工とか、作っていく商品の企画に合わせて機能性をカスタムしていくことができるのが、カバロスの特徴です。
NU:過剰生産や廃棄衣料などアパレル業界には様々な問題があります。これから先、ファッションと環境問題はどうなっていくのでしょうか?
矢作:それは自分も常々考えていて、私の会社でもESG評価というものを取り入れています。
NU:それはどういったものなのでしょうか?
矢作:「人権」「環境」「経済」の3つを軸に行っていて、例えばこのジーンズがどれだけそれに貢献できたか?というのを数値で可視化できるんです。そうすることによって既存の価値観から、新しいファッションのソリューションを提案していければと思っています。ファッションも見た目だけではない、きちんと奥行きのあるものにしていきたいですね。
NU:ありがとうございます。
テクノロジーの力で、誰もがより快適に過ごすことができるようになった現代。
しかしその一方で、急激な気候変動など自然の脅威に翻弄されることも多くなった。私たちは手に入れた技術で、もう一度世界を見つめ直すべきなのではないか。
見た目を追求するファッションから、物づくりのあり方や社会との関わり方までを考えるファッションへ。私たちが生きていく環境を、私たち自身が守っていくために何をするべきなのか?
誰もがそんなことを考えなくてはいけない時代が、いよいよ来たのかもしれない。
profile
矢作 比呂貴 Hiroki Yahagi
hap株式会社 専務取締役
/COVEROSS Creative Director2013年、ディレクター兼デザイナーとして自社ブランドBLUEYをスタート。OEM・ODM事業では、メンズブランドを中心にディレクションやデザインなど相手先ブランドの根幹に携わる。サーフィンと旅をライフワークとする二人息子の父でもある。
STAFF CREDIT
photography_Hiroto Abe
model_Mael(BRAVO)
hair&make-up_Rie Akita
direction_Naoto Furuyama